作品紹介文:高橋森彦(舞踊評論家)
<第1部> フレッシャーズガラ
「眠りの森の美女」第3幕よりオーロラ姫のヴァリエーション
川本真寧
「眠りの森の美女」はペローの童話に基づきプティパがチャイコフスキーの曲に振り付けたプロローグ付全3幕の大作(1890年初演)。100年の眠りについたオーロラ姫がデジレ王子の口づけより目を覚ます。2人の結婚式でオーロラ姫が踊るヴァリエーションには優雅さ・気品が求められバレリーナの試金石ともいえる。川本真寧は『横浜バレエフェスティバル』出演者オーディション第1位を獲得したホープ。清新な踊りに期待したい。
「コッペリア」第3幕よりフランツのヴァリエーション
五十嵐脩
「コッペリア」の初演は1870年、パリ・オペラ座。サン=レオンがドリーブの音楽に振り付けた。スワニルダとフランツのコミカルな恋模様を中心に老博士コッペリウスの悲哀も描かれる。牧歌的な物語だが最終幕のディヴェルティスマンはにぎやかだ。五十嵐脩は『横浜バレエフェスティバル』出演者オーディションで第2位に入り芸術監督・スーパーバイザー賞を獲得しての出演となる。若さ弾けるパフォーマンスを心待ちにしたい。
「タリスマン」よりニリチのヴァリエーション
永久メイ
「タリスマン」はバレエコンクールの定番曲であるものの全幕の物語に関してさほど知られていない。表題は護符・お守りという意味。プティパがドリゴの曲を用いて振り付けた(1889年初演)。天上界の王の娘ニリチが地上に降り立つが大事なお守りを落としてしまう。それを手にしたインドの藩王ヌレディンと恋に落ちるが…。2013年ユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)ジュニア部門第1位の永久メイが愛らしく踊るだろう。
「コッペリア」第3幕よりスワニルダのヴァリエーション(ABTバリシニコフ版)
相原舞
フレッシャーズガラ出演者の最年長が相原舞。2013年12月、アメリカを代表する超名門人気カンパニーであるアメリカン・バレエ・シアター(ABT)に正団員として入団した。日本人としては3人目の快挙である。『横浜バレエフェスティバル』出演に際し「ABTらしい演目を!」と往年の名ダンサーでABTの芸術監督も務めたバリシニコフが手がけた「コッペリア」のヴァリエーションを準備した。表情豊かな踊りが見られるに違いない。
「サタネラ」よりパ・ド・ドゥ
畑戸利江子 二山治雄
2014年のローザンヌ国際バレエコンクールで第1位を獲得した二山治雄の活躍にメディアは沸いた。受賞後各地の公演に招かれて踊っているが今回注目したいのが2013年の第12回モスクワ国際バレエコンクールで銅賞(ジュニア部門デュエット)に輝いた新進気鋭の畑戸利江子とパ・ド・ドゥを披露すること。プティパがプーニの「ヴェニスの謝肉祭」に振り付けた珠玉のデュエットを、伸び盛りの2人が生き生きと踊るのを楽しみにしたい。
<第2部>ワールドプレミアム1
「horizontal episode」 オセローより
(振付:平山素子 美術:乗峯雅寛)
平山素子 久保紘一 宮河愛一郎
平山素子は日本を代表するコンテンポラリーダンサー/振付家として不動の地位を誇る。研ぎ澄まされた感性と圧倒的なエネルギーを秘めたダンスは比類ない。今回創る新作は、長年アメリカで踊りNBAバレエ団芸術監督として奮闘する久保紘一、新潟発のプロフェッショナル・ダンス・カンパニーNoism(ノイズム)で活躍した宮河愛一郎とともに踊るトリオ作品。三者の個性が響きあい化学反応をもたらす瞬間に立ち会えるだろう。
「アルトロ・カントⅠ」よりパ・ド・ドゥ
(振付:ジャン=クリストフ・マイヨー)
小池ミモザ 加藤三希央
モナコ公国モンテカルロ・バレエ団を率いるマイヨーは現在もっとも注目される振付家の1人。今春日本でも上演された「LAC~白鳥の湖」など古典を読み替えた大作によって名高いが音楽性豊かな抽象作品も手がけている。「アルトロ・カントⅠ」(2006年)は、その路線の最たるものでモンテヴェルディらの曲を用いた秀作だ。マイヨーのお膝元で活躍する小池ミモザと加藤三希央が、鬼才の美の精髄を純度高く表現するのを目に焼き付けたい。
「ソワレ・ド・バレエ」よりパ・ド・ドゥ
(振付:深川秀夫)
米沢唯 奥村康祐
深川秀夫は日本人バレエ・ダンサーの海外進出の先駆者である。バリシニコフらと国際バレエコンクールで上位を競い、名匠クランコに認められるなど活躍した。現在は振付家として繊細な感性を持ち味に独自の美を追求している。「ソワレ・ド・バレエ」はグラズノフの「四季」にのせた詩情豊かな作品で再演を重ねる名作。心・技・体ともに充実した米沢唯と奥村康祐が、深川一流の洒落たステップを、この上なく光り輝かせるはずだ。
「excuse us」
(振付:JAPON dance project )
青木尚哉 児玉北斗 柳本雅寛
JAPON dance projectは2013年5月、モナコ公国の芸術研究機関であるLe Logoscopeの一部として活動開始。遠藤康行、小池ミモザ、柳本雅寛、青木尚哉、児玉北斗を軸にコンテンポラリーダンスに関するリサーチ/コラボレーション/クリエーション/世代間の交流を日本文化独自の視点から行うのを目的とする。2014年8月には新国立劇場主催公演として「CLOUD/CROWD」を発表し話題となった。3人の男性による新作にも注目したい。
<第3部>ワールドプレミアム2
「半獣」牧神の午後よりパ・ド・ドゥ
(振付:遠藤康行)
小池ミモザ 遠藤康行
『横浜バレエフェスティバル』の芸術監督・遠藤康行はベルギーのシャルロワ・ダンスを経てフランス国立マルセイユ・バレエ団のソリスト/振付家として活躍している。その遠藤が若き日、スターダンサーズ・バレエ団時代に踊って評判をとったのがロビンス版「牧神の午後」だった。今回、思い入れも深いに違いない題材を扱った自作「半獣」を長身でダイナミックな表現の光る小池ミモザと踊る。実力者同士の迫力あるパフォーマンスは見もの。
「ジゼル」第2幕よりパ・ド・ドゥ
高田茜 高岸直樹
英国ロイヤル・バレエ団ファースト・ソリストとして活躍する高田茜は2008年にローザンヌ国際バレエコンクールに入賞し脚光を浴びる。その時踊ったロマンティック・バレエの名作「ジゼル」第1幕のヴァリエーションは可憐で美しく目を引いた。それから7年―今回は第2幕のウィリーとなって踊る名場面を日本の観客の前で披露する。表現力に定評あるだけに百戦錬磨の大ベテラン高岸直樹を相手役に観るものを陶酔へと誘うはずだ。
「眠りの森の美女」よりパ・ド・ドゥ
(振付:マッツ・エック)
湯浅永麻 Bastien Zorzetto
昨年スウェーデン王立バレエ団の木田真理子が世界的に権威のあるブノワ賞を獲得したのは記憶に新しいが受賞対象となった「ジュリエットとロミオ」を振り付けたのがエックだ。古典的な物語を独特な設定、ひねりの利いた作舞でキッチュに読み直す異能である。1996年初演の「眠りの森の美女」ではオーロラ姫はなんと不良少女に!現代ダンスの名門であるネザーランド・ダンス・シアターⅠ(NDTⅠ)の2人によるエッジーなダンスを堪能したい。
「海賊」第2幕よりメドーラ、アリ、コンラッドのパ・ド・トロワ
小野絢子 八幡顕光 加藤三希央
「海賊」は1856年、イギリスの詩人バイロンの物語詩に基づきマジリエが振り付けパリ・オペラ座で初演された。のちにプティパが改訂し以後それを基本に様々な版が生まれている。ギリシャの娘メドーラと海賊の首領コンラッド、その奴隷アリによるパ・ド・トロワには超絶技巧が散りばめられており大きな見せ場。新国立劇場バレエ団のトップ・ダンサーの小野絢子と八幡顕光、テクニシャンの加藤三希央が華やかに舞台を盛り上げるだろう。